Destructured
Yutaka Yamauchi

MBAから博士後期課程に進むことについて

経営管理大学院は専門職学位課程(経営学修士=MBA)が中心になっているのですが、毎年数名博士後期課程に興味があるという方がおられます。一緒に研究をしてくれる学生が増えるのはありがたいことです。一方で、本大学院の構造上、このような方々が大きな問題に直面します。このような道を考えておられる方に少しでも助けになればと思い、私の体験と個人的な意見を書いておきたいと思います。

まずMBAの授業と博士後期課程の研究とは全く別のものです。MBAの勉強を続けていれば博士号につながるという誤解が多いです。私は博士課程から米国のビジネススクールに行きましたが、MBAの授業は1つしか取りませんでした(ある先生との関係で取らざるを得なかったからです)。そもそもそれを求められてもいませんでした。唯一関連するのは、将来的にMBAの授業を教えなければならないということですが、そのやり方はTAをして学ぶことができます。本大学院でも博士後期課程は経営科学専攻であり、MBAの経営管理専攻とは別の専攻です。厳密にはMBAの上にPh.D.があるわけではありません(もちろんリーディング大学院デザイン学の5年一貫の博士課程を提供するという配慮しています)。

MBAではかなりの授業を取ることが求められます。しかし、MBAに入学し博士後期課程に進みたいと決めた人にとっては、その授業をこなしながら全く別の勉強、つまり博士の研究をしていかなければなりません。そして、この別の勉強の方がメインなのですが、MBAにいる間はそのためのリソース(授業など)は用意されていませんし評価もされません。これをやりきるには相当の努力が必要です。しかもこの二重の努力が必要なことを理解していないところから始まるので、三重のハンディがあります。ギアが入らないまま時間が過ぎていくという危険があります。

5年一貫の博士課程というと時間があるようですが、実はほとんど余裕がありません。例えば私がやっているような研究ではジャーナルに論文を載せるのに投稿してから2、3年かかりますし、その前に論文になるまでに2、3年はかかります(もちろん何でもよければもう少し早いかもしれません)。ということは博士課程にいる間に論文が採択されていることを想定すると(公刊論文があることが学位の前提となっています)、最初の2年の間には投稿する道筋がついていて、遅くとも博士の1年目の間には投稿しないといけないということです。しかしMBAに入ってから研究を始めようという人は、2年で最初の研究の目処をつけるのは不可能に近いものがあります。

とりあえず、修士1年生の間に自分の興味のある領域の論文を100本読むというトレーニングから始めています。これを通して1本でも自分がやりたいようなモデルとなる研究が見つかると、それと同じようなことをやっていけばいいということで見通しがつくようになります。どこの博士課程でもやっていることですが、それを多くの授業を履修しながらやっていくわけです。

自分もこの道に進むと決めてから色々悩み、諦めようと思ったことも多々あります。それだけシンドい職業だと思います(というとどの職業もそうですが)。ですので、博士後期課程に進みたいという方がおられると、やめておいた方がいいよと言いたい気持ちがあります。一方で限られた数ですが期待していたレベルをはるかに越える学生もいます。私が他人の人生を制限することの躊躇もあります。結局教員にできることはそれほど多くありません。