The general (simplified) idea of this book was presented in English at TEDxKyotoUniversity. Please watch it here.

「闘争」としてのサービス—顧客インタラクションの研究

サービスとは何でしょうか? 心からの奉仕であるとか、居心地のいい空間を作ることであるとか、顧客のニーズを満たすことであるとか、顧客に便益をもたらすと言われます。サービスにおいては顧客を満足させることが究極の目標であると考えられることが多いです。しかし本当にそうでしょうか?

鮨屋で親父がニコリともしない。わざわざメニュー表を置かず、値段もわからず、最後に合計しか知らされない。京都の料理屋でとても入りづらい雰囲気を醸し出したり、読めない掛軸がかけられている。何も看板をかけないあやしそうなバーがある。カジュアルなイタリアンやカフェでも、メニューに客にとって理解不可能な名前がつけられている。これらは既存のサービスの理論では説明できないように思います。

サービスとは力のせめぎあいです。お茶席で亭主がそっと見えないように気遣った。客がそれを見て感心した。これは見えないように気づかったことで、客からの見返りをもとめない配慮をしているというだけではありません。客がその亭主の力量を「感心した」、つまり亭主の力を認めたこと、そして客がそれを認めるだけの力を持っていることが問題となっているのです。

もし鮨屋で職人が笑顔をふりまいて客につくそうとすると、客はその鮨を同じぐらい高く評価するでしょうか? 職人は客のためにではなく、自分のために仕事をしているから、客はその仕事を高く評価するのです。提供者が客を満足させようとすると、客は満足しなくなります。客にわかりやすく、居心地のよい空間を作るのではなく、逆にわかりにくく、緊張感のある空間を作らなければなりません。サービスは高級になるほど、笑顔、情報量、迅速さ、親しみやすさなどの所謂「サービス」は減少します。これらの「サービス」はサービスの本来の価値を低下させます。

どのようなサービスでも、つまり高級なものだけに限らず、まずそのサービスが客にとって特別なもの、非日常であるというように文化を構築します。その時点で客を否定しているのです。つまり客が日常的に知っているものよりも優れたものであるということ。そして客はそのように構築された文化の中で背伸びをしてふさわしい人間を演じることを求められます。この緊張感がサービスの基本であり、笑顔で調和の取れたサービスというのは、その裏返しとして作り上げられたものです。

サービスが闘いであると主張するとき、客をないがしろにするということではありません。客を一人の人間として認めるならば、その人と闘う覚悟が必要となります。世の中では一方的なサービスが広く普及していますが(金を払って座っていれば満足させてくれるという意味で風俗化と呼んでいます)、そこでは客を一人の人としては捉えていない、つまり人をモノとして扱っているのです。闘いのサービスは、人を人として考える必然的な帰結です。

サービスの価値は、このような闘いから生まれます。要求を満たすと要求が消滅し、価値も消滅してしまいます。客を喜ばそうというだけのサービスは自らの価値を毀損することになります。全く別の価値があるということを理解することが重要だと考えています。本当の料理人はただ食べて美味しい料理を作りません。美味しいかどうかわからないような料理。それにより料理人はリスクを取り勝負しているのであり、客も試されているのです。

この本はサービスに関する言説を180度転回させる結果となりました。それだけサービスという対象が複雑で両面的なのです。現在社会はサービスで溢れています。経済の大部分はサービスですし、製造業も農業もサービス化しようとしています。そのようなサービスがこのように180度違う議論を許すというのは、学者としてはとてもエキサイティングなことです。サービス科学は今後もっと面白くなる予感がします。

第一部
鮨屋、モスバーガー、イタリアン、フレンチなどでビデオカメラで記録して分析したサービスの経験的研究です。

第二部
このようなサービスは既存理論では説明がつかず、新しい理論が求められています。サービスとは力を示し、相手の力を見極めようとする闘いです。サービスとは客に奉仕することではなく、客を否定することです。サービスにおける居心地とは単なるくつろぎではなく、「緊張感の中のくつろぎ」です。などなど。要点だけを知りたい方は、第二部から読んでいただくといいと思います。

第三部
それではサービスをどうデザインするべきでしょうか? サービスにおいては人間中心設計とは正反対のアプローチが必要となります。つまり、人間-脱-中心設計…

終章
闘いがなくなることにより、社会が画一化し、表面的な人間性が付与されるようになります。そのような社会を乗り越える理論が必要だという問題意識を議論します。

山内裕『「闘争」としてのサービス--顧客インタラクションの研究』 中央経済社, 2015年3月24日.

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日本型クリエイティブ・サービスの時代 「おもてなし」への科学的接近

京都大学経営管理大学院のチームが行なったJST-RISTEXプロジェクトの成果をまとめた本です。おもてなしに代表される日本のコンテクスト依存型サービスについての研究とそのグローバル展開のための示唆を議論しています。第二部の方法論のところに力が入っています。鮨屋の会話分析・エスノメソドロジーから、定量分析、モデリング、そしてサービスデザインまでを含めて、実証科学から実践科学へのシフトを主張しています。このプロジェクトで、東京の鮨屋の研究をしました。

小林潔司, 原良憲, 山内裕 (編) 『日本型クリエイティブ・サービスの時代 「おもてなし」への科学的接近』
日本評論社, 2014年10月.

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